ネットワークシステム学研究室2014の振り返り

ネットワークシステム学研究室は、変復調、信号処理、ワイヤレス通信やセンシング、組み込みシステムといった、いつでも・どこでも・何でもが繋がるユビキタスネットワークのための基盤技術の実現と評価に関する研究を行っています。情報科学研究科の中では比較的物理層に近い研究分野です。それではネットワークシステム学研究室の2014年の研究テーマなどを振り返ってみたいと思います。(特任助教 侯)

1. ワイヤレス給電システムの研究

近年、スマートフォン、携帯電話、電動歯ブラシ、コードレス電話などの電気デバイスを置くだけで充電できる充電器が出現しました。これらの今あるシステムでは、受電器である電気デバイスはあまり移動しませんが、今後の人間生活の更なる利便性を目指すために、移動中の電気デバイスや電気自動車、産業用ロボットなどにワイヤレスで給電できるシステムは必要と考えられます.

現在、主流のワイヤレス給電システムは送電側コイルと受電側コイルで構成され、これらのコイル間の磁気結合を利用することで、電力をワイヤレスで伝送しています。このシステムは、あまり移動しない電気デバイスへの給電は可能ですが、広域なエリアで移動する電気デバイスへの給電には展開が困難となります。なぜならば、その際、受電器の広い移動エリアにたくさんの送電側コイルを配置しなければならないからです。

Fig2

広域なワイヤレス給電の応用例

そこで、本研究は、受電器のモビリティへの対応を目指し、広域な給電エリアを展開できる新方式を提案しています。本提案では、図3に示すように、送電側のアンテナとしてコイルを用いずに、送電線2本で構成する平行2線路を用いることで給電エリアを簡易に拡大できています。高周波電源に接続した平行2線の周囲に磁界が発生するため、この磁界を受電側コイルで結合することで、ワイヤレス給電を可能にしています。その有効性を確認するために、電車模型を用いたワイヤレス給電デモを以下の動画でご覧いただけます。

Fig3NetworksystemLab2014

平行2線路を用いたワイヤレス給電の原理

動画:『NAIST ネットワークシステム学研究室 ワイヤレス給電デモ』

https://www.youtube.com/watch?v=diHCFyDdsSQ

上記の動画では、平行2線路により広域なワイヤレス給電が可能であることは明らかになりました。実用化までには以下のような課題を解決する必要があります。

  • 伝送効率の向上:高い効率で電力伝送を行うためには、受電側コイル形状・配置の工夫やインピーダンス整合などが必要となります。
  • 受電器の移動に対する受電電力の安定化:受電器が移動する時、電源から見た平行2線路のインピーダンスが変化するため、受電電力は変化します。受電デバイスを正常に動作させるために、受電電力の安定化が必要です。
  • 複数デバイス給電時の電力分配:複数デバイスへ給電する際、1つのデバイスが電力を取り過ぎると、他のデバイスは所望電力を受電できなくなるので、適切な電力分配が必要不可欠です。

上記以外、他に課題はまだ残されますが、本提案を用いることで、広域なエリアへのワイヤレス給電が可能と期待できます。また、本研究について、岡田実教授がNEジャパン・ワイヤレス・テクノロジー・アワード2014を受賞しました。(博士研究員:Duong Quang Thang)

2. 光ファイバ無線システムの研究結果

ネットワークシステム学研究室ではRoF (Radio over Fiber: 光ファイバ無線) に関する研究も行っています。RoFとは,同軸ケーブルと電流の代わりに光ファイバとレーザー光を使って無線信号を伝送する技術です。光の強さを無線信号の形に変調してアナログ信号として伝送します。光ファイバは信号を劣化させずに長い距離を伝送できるので、ケーブルテレビの信号を送ったり、たくさんのアンテナから信号を集めて1箇所の制御局で処理したりする用途に用いられます。一方で、光ファイバを使った通信というと光のON, OFFを切り替えて0, 1のデジタルのデータを伝えるものがあります。このような方法でデータを送る信号はOOK (On-Off Keying) 信号と呼ばれます。これはイーサネットなどで使われ,皆さんのパソコンもこのOOK信号を使ったインターネットで世界中とやりとりできています。RoFとOOK信号を送るためには普通それぞれに1本ずつで2本の光ファイバが必要ですが、本研究室ではこのRoFの信号とOOK信号を1本のファイバで送る方法を光OOK重畳ファイバ無線 (RoOOOK: Radio on Optical OOK) として提案し研究しています。同時に送るとき問題となるのは2つの信号の干渉で、この干渉を抑圧する方法をEEE COMS 関西チャプタ学生研究発表会で発表しBest Student Presentation Awardを受賞し、さらに抑圧効果を上げる方法をカンボジアで開かれた国際学会APSIPA ASC 2014で発表しBest Paper Awardを受賞しました。(M2:金子)

Fig4NetworksystemLab2014

 光OOK重畳ファイバ無線システム

本研究室では他にもRoFに関する研究を行っています。RoFの伝送において複数の無線信号を送ろうとすると相互変調歪 (IMD: Intermodulation Distortion) という邪魔な信号が発生してしまうことがあります。無線通信においてたくさんの人が一度に通信できるのは使っている周波数が異なるからです。ですが、AさんBさんCさんが通信しているときに、AさんとBさんの2つの信号から生まれた相互変調歪がCさんの使っている周波数を妨害してしまうことがあります。こうなるとCさんは通信できなくなってしまいます。相互変調歪が現れる周波数には規則があるので、相互変調歪ができない周波数にCさんの周波数を割り当てればよいのですが、今度はAさんとCさんの相互変調歪がDさんの周波数を妨害して……というようにたくさんの人が通信しようとすると大変です。このように無計画には周波数を割り当てられないので、たくさんの人が使う時でも可能な限りみんなが最大のデータを通信できるような周波数の組み合わせで周波数配置する方法を研究しています。さらに、この研究では、相互変調歪を弱めるためにプリディストーション (pre-distortion) という方法も導入しています。元々の無線信号は電気の信号ですが、これを光信号に変える変調器や、信号を強める増幅器の非線形性がこの相互変調歪を作っています。入力の電気信号に対して出力の光信号が全く同じ形でなく少し歪んでしまうことが相互変調歪の原因です。そこで、入力する電気信号を変調器の歪み方とは逆に歪ませることで、結果的に出力から歪みを無くします。あらかじめ前もって歪ませるのでプリディストーションと言います。以上のように、本研究室では周波数の配置とプリディストーションを使ってRoFにおける相互変調歪の影響を最小にして通信パフォーマンスを向上させるという研究も行っています。(D1:Withawat)

 3.デジタルテレビシステム

2012年から、日本では、世界の三大デジタルテレビ(DTV: digital television)規格の一つである統合サービスデジタル放送(ISDB-T)と呼ばれるサービスが導入されました。これにより、映像・音声・文字情報・静止画情報など、すべてをデジタル信号でまとめて1つの電波で放送するという新しい放送サービスの提供が始まりました。ISDB-Tは、モバイルと固定のテレビ受信機で高精細テレビを提供することだけではなく、1セグメント技術を使用して、ハンドヘルド受信機でTV受信が可能となります。

モバイルTV受信の場合には、放送局とテレビ受信機との間のチャネル(伝搬路)の特性は、急速に変化します。したがって、これらのチャネル特性の推定は、受信信号の良好な品質を達成するために非常に重要です。受信信号の品質と効率を向上させるために、本研究の一部として圧縮センシング(CS: compressed sensing)法に基づくチャネル推定法を検討しています。

圧縮センシング法は、わずかな測定値を使用して、スパース信号の回復を可能とする新しい技術です。無線チャネル推定、医療用画像処理、センサネットワークなど異なる用途で広い範囲において使用されています。本研究室では、CS法に基づき、1つのセグメントのモバイルTV受信端末においてチャネル推定のアルゴリズムを研究開発しています。提案法は既存法よりも高精度に伝搬路特性を推定でき、計算量の削減も達成しました。

Fig5NetworksystemLab2014

Example of a multipath wireless channel

また、電子制御導波器アレーアンテナ(ESPAR:electronically steerable passive array radiator)、或いはエスパアンテナと呼ばれる、特別なアレーアンテナ応用を研究開発しています。小型化かつ低消費電力など優れた特性を持つエスパアンテナは車載DTVシステムの受信端末において受信電力倍増などができ車載アンテナとして非常に適しています。発振器を調整して、周期的にエスパアンテナの放射パターンを変更し、更に信号処理技術を用いることで、信号品質を大きく改善できることが確認できます。本研究室では、エスパアンテナをテレビ受像機として使用し、CS法によるチャネル推定法を検討しています。

Fig6NetworksystemLab2014

 7-素子 ESPAR アンテナ

本研究室では、単に理論的な分析ではなく、ソフトウェア無線(SDR)のハードウェアおよびフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)を使って、上記のエスパアンテナを用いたISDB-T受信機のハードウェア実装を目指します。さらに、信号処理技術により、より効率的かつ低消費電力のハードウェアアーキテクチャを作成することを研究開発しています。(D2:Diego、D1:Rian、M2:Ryan)

4. 漏洩同軸ケーブルを基づくMIMOシステムの構築

近年、電波不感エリアにおける新しい無線通信基盤として漏洩同軸ケーブル(LCX)が着目されています。このLCXは外部導体に空けられた放射孔から電波が漏れ出すことにより、給電線とアレーアンテナの2つの特性を持つという特徴があります。もともとLCXは災害用の無線通信基盤として地下街やトンネル、無線通信による車両管理システムの利用を目的として新幹線の沿線などに敷設され古くから利用されており、近年ではオフィス用の無線通信システム等にも用いられており、このようなリニアセル通信環境の実現手段として漏洩同軸ケーブル(LCX)を用い、その高機能化と空間多重度を向上させる、高精度な無線端末位置検出研究開発を行っています。

LCXを用いたリニアセル無線システムと利用シーン

本研究では、開発したLCX-MIMO技術により、1本のLCXを2アンテナ相当として利用するMIMO伝送システムの構成を検討しています。従来は、1本のLCXでは1アンテナ相当の機能にとどまっています。今回開発した技術では、LCXから放射される電波が指向性を持つ性質を利用して、1本のLCXの両側から異なる信号系列を有する無線周波数帯の信号を同時に入力します。これにより、既存のMIMO伝送システムで2本のアンテナを使用して送信した場合と同様に、受信側ではそれぞれに入力された信号が異なる伝搬路を経由して受信されるため、MIMO伝送が可能となります。本LCX-MIMO技術を適用することにより、従来の2倍のスループットを安定して実現可能なことを伝送実験により確認しました。さらに、2本のLCXを近接して設置し4アンテナ相当としてMIMO伝送に利用可能なことを基礎実験により確認しました。提案したLCXによるMIMOシステムは、コスト削減効果と設置スペース制約条件が緩和できる特長から、リニアセルへの実用展開が期待されます。 このテーマについては、2014年10月に行われたIEEE Consumer Electronics Society 主催の国際会議(IEEE GCCE2014)で、「4-by-4 MIMO channel using two leaky coaxial cables (LCXs) for wireless applications over linear-cell」というタイトルで研究発表を行い、最優秀研究賞を頂いました。(特任助教:侯)

また、LCXによるMIMOシステムは高精度な無線端末位置検出ができます。昨年度は1本のLCXを利用してケーブルの長手方向について位置検出を行っていましたが、今年度はそのシステムを拡張させたLCX-MIMOシステムでの位置検出を行っています。このシステムはLCXとMIMO技術を組み合わせたもので、端末から送信された信号がLCXの両端に到達する時間差を利用して、より高精度な端末位置検出が可能になります。また、昨年度はシステムを全てシミュレーションによって構築していましたが、今年度はATRによって行われた実験データを元に位置検出を行い、より実践的に研究を進めています。

このテーマについて、2014年12月に行われたスマートインフォメディア(SIS)研究会で、「LCX-MIMOシステムにおけるMUSIC法を用いた高精度端末位置検出」というタイトルで研究発表を行い、若手研究優秀賞を頂きました。(M2:沖)

いかがでしょうか、2014年度のネットワークシステム学研究室の研究の様子が少しでも伝わっていればと思います。

ネットワークシステム学研究室の最新情報はこちらから

http://agano.naist.jp/hp/index.html

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