山本:助教の山本です。まずは簡単な自己紹介と、それから研究内容を。
欅:D3の欅です。私は博士後期課程から入学しました。修士までは情報検索が主の研究室にいたのですが、進学してもっと幅広く学びたいという気持ちが強くて、メディア処理やユーザインタフェースの研究をしているこの研究室に来ました。
現在、XML部分文書検索の研究をしています。普段インターネット上で検索しても、文書中から必要な情報を自分の目で探す必要があり、苦労して全部読んでも欲しい情報はなかった、ということがよくあります。取り組んでいるXML部分文書検索は、検索エンジンがどのあたりを読めば良いか要点部分を示してくれます (図1)。読むべき箇所が一目瞭然なので、ユーザが楽できます。これまでは正確な検索を研究していましたが、最近は実用という観点から、文書が大幅に更新されても正確かつ速く検索結果を提示する研究に力を入れています。しかし、正確さを取れば遅くなり、速さを取れば正確でなくなり、そう簡単な話ではありません。
藤本:D2の藤本です。学部3年の初めにAR技術を比較的簡単に試すことができるARToolKitというライブラリの存在をウェブで知り、早速ウェブカメラを買って家で試してみて衝撃を受けました。ARとはカメラの動画像にその場でCGなどを重ね合わせて表示する技術で、今でこそNintendo 3DSやPS vitaなどのゲーム機にも導入されていますが、当時は、これは世界を変える技術では!?とまで思ったような(笑)。あまりの衝撃に、自分の大学の大学院には行かず、しかも機械系から情報系のARToolKitの開発者である加藤先生の研究室に進学しました。
現在の研究は、ARを用いて原子力発電所の解体作業を支援するシステムの要素技術について取り組んでいます。現在はマーカが印刷された紙面上にCGを表示するようなARが主流で、これはカメラから見た紙面の位置と姿勢をリアルタイムで推定することで実現していますが、実は応用すれば紙面だけでなく様々な3次元物体にもCGを表示させることができます。複雑な原子力発電所においてiPadやgoogle glassなどを通して、解体すべき場所や方法をカメラ画像に重ね合わせて表示してやれば、作業時間を減らしながらも、ミスを減らし、かつ安全に作業できます(図2)。しかし、問題は発電所限らずプラントに張り巡らされている金属パイプなどの反射物体です。金属は位置によって見た目が大きく変化してしまうため、正確に位置と姿勢を推定するのが非常に難しいのです。この問題を解決しようとがんばっています。
木村:M2の木村です。高専の専攻科のときにAR技術に興味が湧いて、ARといえば加藤先生!という短絡的な思いつきと、折角だから一度中身も見てやろう、という興味本位でこの研究室にインターンに来ました。研究室全体で行う研究会や、昼食会という先生と学生を交えたウンチク披露会のようなものにも参加して、なるほど研究だけでなく人間関係にもインタラクティブなのかと(笑)まあ感心して、ここに来た次第です。
僕は、ユーザの地図読み能力を向上させるナビの研究を行っています。ナビのおかげで、元々地図を読むのが苦手な人でも簡単に目的地への移動することが可能になりましたが、地図が苦手な人にとって、せっかくの目的地への移動という体験学習なのに、頭を使わず機械の言いなりになって、ますます地図が読めなくなって、と。これはナビのインタフェースの問題と感じて、ユーザの学習につながるナビのインタフェースは作れないか、と思っています(図3)。なぜこんな研究を始めたのかと言うと、人間の生活をサポートするためのIT機器はより便利に、より親切に、という方向に進化してきたけれど、結局人間の学ぶ能力や機会を奪っているんじゃないかと思ったからです。IT機器による人間のサポートと、人間の能力開発を両立できれば、と思っています。
山本:僕もいつも思うけど、研究ってやっぱり難しいし、やっていると苦しいよね? でも、なぜか楽しい。
藤本:修士の時、紙に印刷された英単語の日本語訳を検索し、ARで紙の上に日本語訳を表示させるというAR辞書システムを作りました。これは面白いシステムだ!と自分では思っていたんですが、面白いだけでは研究としては成り立たず、このシステムによって、今までに明らかになっていない知見を得る必要があります。自分がつくったシステムが実際何の役にたつのか、数ヶ月間考え続けた時期が一番苦しみましたね。研究の進捗を報告する場でも毎回ボコボコにされますし(笑).でもこの時期に考えた研究の意義やその考え方が今も役に立っていると感じます。やはり苦労してなんぼということで。
木村:そうそう、僕も長い時間調べて考えて出したアイデアを先生に見せても一蹴されて、また考えてみて、見せて、また蹴られ、そしてまた考えてですから… 存在しないゴールを目指しているようでこれは辛いです。生みの苦しみって言うんですかね?とにかく、新しいアイデアを考える時間は辛い。今もまだまだゴールがはっきり見えないので苦しんでいますけど。
欅:私の場合は、ちょっと違って、研究のプロセスでの苦労はさておき、他の人に自分の研究を分かりやすく伝えるのが苦手で、今も特に苦労しています。
でも、苦労の反面、研究した成果を他の研究者から認められたときの大きな達成感は言葉で表せない。博士課程にもなると他の大学の知り合いの研究者の知り合いも増えますが、国内外の学会で斬新なアイデアを聞いたとき、そして出会う友人たちと研究について語り合うときはワクワクしますね。
藤本:そうそう、論文を読んで、世界中の優秀な研究者の方々が考えた様々なアイデアにふれると本当にワクワク。大好き。でも、いざ自分のテーマに取り組むとなると苦労するわけですが…。
学会に行けば似た目的で研究をしている人もいて、その場で初めて会った人と研究に関して意見交換できるのは本当にうれしいですね。学会ってそんなもん、というツッコミはなしで(笑)。海外で発表した時、休憩時間に「私も似たような研究を行っているけど、同じような実験をしたが良い結果が得られなかった。どんなことに気をつけて実験をすればよいの?」と、アドバイスを求められ、ちょっと偉くなった気分。
木村:まだ修士なので、先輩のようにワクワクという境地まではいきませんが、やっぱり楽しさと苦しさは表裏一体な部分がありますね。僕が苦しんで考えたアイデアが先生に受け入れられた瞬間は楽しいというか、嬉しいというか、正直ホッとしますね(笑)。
学会ではないですが、就職活動の面接で「ナビだけでなく他でも応用の効きそうな研究だ」と言われて、やはり自分のアイデアが認められるのはうれしいですね。あ、余談ですがこの面接通りました!
山本:そう言えば、欅君はいい成果を出しているよね?
欅:XML情報検索の国際的なコンペティションでINEXというのがあるのですが、研究していた検索エンジンが2010年にその正確さが世界二位になりました。最近の話ですが、情報検索の分野はそもそも図書館がベースにあり、文書が更新されるということはあまり考えられてこなかったのですが、ウェブ文書は日々更新されるのが普通だし、と思って、XML情報検索で文書の更新が頻繁に起きても、正確で速い!を実現したらこれが受けて。DEIM2013という国内の学会で最優秀論文賞をもらいました。労が報われた感じです。
山本:それは他の人に理解されるようになったということ?
欅:いやぁ、研究室の先生方はみんな同じ分野ではないので、先生方に「分からん!」と言われ続けながら鍛えられたから、外の研究者にも理解されるようになったのかなぁ、と。
山本:話は変わるけど、僕はこの研究室は研究テーマもメンバーもバラエティに富んでいて、そして自由だし、ここにいて良かった、と思うけど、君たちは?
欅:留学生が多いので、彼らとの日常のコミュニケーションを通して英語能力が向上したことでしょうか。ちょっと留学気分。
藤本:いやほんと、研究室の半分以上が留学生で、多種多様な価値観が入り乱れていますよね。研究以外にも、日常的に意見を交わせることは非常に刺激的です。英語の論文執筆や発表をひかえているとき,いつも力になってくれて本当に感謝してます。
山本:どおりで、いつも英語が上手いよう見えるわけだ。木村君は他に何かある?
木村:そうですねぇ、強く実感することは、研究の話をしっかり聞いてもらったり意見をもらったりと、この研究室のつながりの強さは有り難いです。インターンの時に感じたことは正しかったなと思います。また研究の話でなくても、欅さんや藤本さんのような悪い先輩と、冗談を言い合ったりできるのも特徴かも。
欅、藤本:冗談になってない!