3Dプリンタを活用した研究(ロボティクス研究室)

3Dプリンタを活用した電動義手-「Finch」と「リアル電動義手(仮)」

何らかの理由により手を失った方は,手の機能を代替する義手を使用します.当研究室では,3Dプリンタを活用した2種の電動義手を開発しています.一つは「Finch」と呼ばれる電動義手で,対向に配置された3指によって高い作業性を実現するものです.もう一つは,「リアル電動義手(仮)」と呼ばれる電動義手で,市販の装飾義手(把持機能はないが外観がリアルな義手)の外観のまま,簡易な把持機能を付加した義手です.いずれも3Dプリンタをフルに活用して,人体とのインタフェースであるソケットも含めて開発しています.

3Dプリンタで義手を開発するメリットは,1)ユーザが少ない義手でも少量から製作できる,2)3DCADを用いて自由度の高い設計ができる,3)短時間で試行錯誤できる,4)少量ならば金型を作るよりも安い,5)サイズ変更が容易,6)一か所で製作可能,8)部品が壊れてもすぐに再製作が可能,9)設計データを共有しやすいなど,多数あります.

反面,強度面や安全性での懸念はあります.ただし,3Dプリンタの性能向上は日進月歩であり,強度が高く人体との接触を考慮した安全な材料を使用できる機種も現れてきていますので,これらの課題は徐々にクリアされるでしょう.また,既存の補装具としての扱いが制度上難しいなどの課題もありますが,これも3Dプリンタ有用性が認知されるにつれて状況は変わってくると思っています.3Dプリンタを活用した支援機器がユーザに届く日まで,根気よく開発を行っていきます.

義手の写真

3Dプリンタと市販デバイスを利用した安価な見守りデバイス

日本は世界的に見ても高齢化が最も進んでいる国の1つであり,加齢や疾患による要介護者数の増加が大きな問題となっている.特に運動機能の低下による転倒や転落はより大きな身体的ダメージを引き起こす要因となるため,転倒転落の観測や解析が研究されている.医療機関や福祉施設などにおける転倒転落防止においては,転倒転落が発生する可能性の高い単独行動,すなわちベッドからの離床を検出することが重要であると考えられている.

現状では,患者の衣服とベッドをクリップ型のセンサで繋ぎ離床を検出するシステムや,ベッド上に圧力センサを多数敷き詰めて離床や危険状態を検知するシステムなどが利用されている.しかし,クリップ型センサでは患者がセンサを外してしまい離床検出が出来なかったり,接触型センサでは寝返りなどの別の動作で反応してしまったりと誤作動が多いという問題が残っている.また,患者やベッドに物理的に取り付けるセンサでは衛生面や耐久性,設置にコツが必要であるなどの問題などが残されている.

一方,患者に非侵襲なシステムとして非接触型のセンサを用いた患者見守りシステムへの期待が高まっており,いくつかの製品が提案されている.これらのシステムでは離床だけでなく患者の姿勢なども計測可能であるため,より多くの情報が取得可能であるが,次のような問題を抱えている.

  1. 初期設定やベッド移動に伴う機器調整など導入・運用に手間がかかる.
  2. 従来のシステムに比べて高価である.
  3. 患者の映像を取り扱う(何をしているかわかってしまう)ためプライバシーの問題がある.

本研究では,医療機関や福祉施設などにおける実用化を目指した高信頼な見守りシステムの開発を目的としている.我々はこれまでに,ベッドからの離床を高い信頼度で検出することを目的とした低価格でメンテナンス性の高い見守りデバイスの開発を行っている.これまで,市販のハードウェアを組み合わせることによって誰でも低価格にデバイスの構築が可能であることを示し,ソフトウェアをコンポーネント思考で開発することによってメンテナンス性が高く,ベッド位置の変化などに頑健なアルゴリズムを提案している.

今後も動作検出アルゴリズムの改良やデバイスの改善を続けていく予定である.

MIMAMORIsystem

ロボティクス研究室

はじめに

今回は、ロボティクス研究室を紹介したいと思います。我々はスタッフ5名、学生27名で使えるサービスロボットを実現すべく、日夜研究に励んでいます。研究の興味が近い人が集まって3つのグループを作っているので、各グループから1人ずつ記事を書いてもらっています。記事を読んでロボティクスや研究に興味が出たら、オープンキャンパスやいつでも見学会で見学に来てください!(助教 池田 篤俊)

ビヘイビアグループ

私は中学の頃、数学や理科、技術が好きだったこともあり、ものづくりに興味をもったため高専に進学しました。私は高専と大学の中で工学の知識をつけていくうち、次第にロボットに興味を持つようになりました。大学院ではロボットに関わる研究がしたいと思い、研究室を探す中で見つけたのが、このロボティクス研究室でした。

現在、私はこの研究室で下の写真にある多脚のロボットを使って、様々な地形で歩行させる研究をしています。ロボットはこれから介護や探査など色々な場面で使用されるようになると思います。例に挙げた探査などでは特に、人が入り込むのが難しい場所でのロボットの使用が予想されるので、私の研究では、どんな環境でロボットを使用するのかわからなくてもロボットはしっかり進める、そういった技術の開発を目指しています。

ロボティクス研究室には現在3つのグループがあり、私はその中の、主にロボットの行動生成に関する研究を行っているビヘイビアグループに所属しています。ビヘイビアグループでは下の写真にあるようなロボットたちを使用して、ヒューマノイドロボットの歩行に関する研究や人とロボットがふれあう場での安全に関する研究、受付案内ロボットの研究など、ロボットの行動生成に関する様々な研究が行われています。他のグループにもそれぞれ異なる特色があるため、ロボティクス研究室全体では、ロボットに関する幅広い研究が行われています。そのため、ロボットやセンサなどの設備がかなり充実していると思うので、ロボットの研究がしたいという方にはおもしろい研究室なのでは、と思います。

「ロボットについて研究がしたいけどロボットに詳しくない」といった方でも、研究室に配属されてからプログラミングの入門やロボットのプログラミング実習など、先輩や先生方のサポートを受けながら研究に必要な知識・技術を学ぶ機会がしっかり用意されています。またそれ以外にも人材育成プログラム(IT3)のRTコースを受講することで、チームでのシステム開発や研究所見学など、更に特別な経験を積むことができるようになっています。

ところで、ロボティクス研究室では研究だけでなく、夏季の研究室旅行や研究室内のスポーツ大会などイベントも色々行われています。日々の研究の息抜きにこうしたイベントも楽しむことで、同期や先輩・後輩、先生方と充実した2年または5年間を過ごせるのではないでしょうか?

takyaku  hrp4  actroid

(左から,多脚ロボット,HRP-4,アクトロイド)

 ヒューマンモデリンググループ

ヒューマンモデリンググループのことについて質問形式でグループ内のM1とM2に回答を頂きました。

Question 1何を研究しているグループですか?

SU:  ロボットをバリバリ動かすのではなく人を測って研究しているのが特徴的です。ロボット系、情報系というよりは少し医学的な要素をはらんだ珍しい研究グループだと思います。担当の先生や先輩方とも研究について親身にディスカッションして頂けるので、楽しくよく理解しながら研究に取り組むことができます。

KO:  名前の通り、人の運動や感覚等を科学的に解明してモデリングする研究を主に行っています。まったくロボットをやらないわけではなく、研究に必要になれば、ロボットを動かすこともあり、他のグループに比較すると解析することが多いグループだと感じます。後、3Dプリンターを使用して自分で設計した治具を簡単に作製することができ、研究と同時にものづくりもできるグループだと思います。

Question 2ロボティクス研究室に入ったきっかけは?

OH:  ロボティクス研究は、HRP-4、NAO、HIROといった様々なヒューマノイドロボットを保有しており、ロボットに関する研究をするには最適な環境であるという印象を受けました。また、研究室内教育も充実しており、関連知識の補充やロボット実機演習などが行われていることから、本研究室では最先端のロボット研究ができることを確信し、配属先を決定しました。

SA: NAISTのいつでもオープンキャンパスに参加、入学後の研究室見学でいろいろな研究室を回り多くの先輩、先生方からお話をお聞きしたが、ロボティクス研究室が一番やりたい研究ができそうだったから。

Question 3: ロボティクス研究室に入ってから一番印象的な思い出は何ですか?

IS:  一番印象強かったのは毎日必ず誰かが研究をしているというところでした。 僕は高専専攻科出身かつ研究室の特色で卒論締め切り等ではないと後輩含め休日に研究室に行かなくても良かったため今まで休日は一人で研究していることがほとんどでした。 ですが、ロボティクス研究室では休日でもかならず誰か一人は研究室で研究しており、驚きを感じました。 今ではそれが当たり前に感じています。
KA:  医師との共同研究の成果を日本整形外科学会基礎学術集会で発表したことはとても印象に残っています。多くの医師の前での発表はとても緊張しましたが、貴重な経験をさせて頂きました。

Question 4: 現在取り組んでいる研究内容を紹介してください。

M2

KA:  私は人間の足部アーチ変形について研究しています。足部アーチとはわかりやすくいうと土踏まずのことで、体重による衝撃荷重の緩和など重要な役割を果たしています。足部アーチを調べるために、臨床の現場ではレントゲン画像を用いられていますが、レントゲン画像は静止画像のため、動作解析には適しません。そこで、私は光学式モーションキャプチャを用いた足部アーチ変形の3次元解析手法について現在、研究しています。

KO:  人が物を把持したり操作したりする際に指先において起きる滑りを計測する研究を行っています。人が得ている触覚情報を定量化する技術は、ロボットのセンシング技術だけでなく、スポーツ分野の把持動作解析等にも応用が可能で多様なアプリケーションが期待できます。現在は、指先腹部の皮膚変形と滑りの関係について解析を行っています。

M1:

IS:  やりたかったリハビリや福祉工学系の研究で現在、下肢の初期段階のリハビリを支援するシステムの開発を行う予定です。

OH:  筋電による手の動作認識

SA:  装飾義手を切断者の意思に従って動かすことができるようにするための義手の内部機構の設計開発を行っている。具体的には、指の受動的な屈曲動作のためにトーションバネを、能動的な伸展動作のためにワイヤ・アクチュエータを義手の内部に組み込むことを想定している。

SU:  指の柔軟性を利用した操りに関する研究をしています。解析的にアプローチをするのではなく、人を測ることでロボットハンドを動かす技術にしようとしているのが特徴です。ロボットハンドをよりよく動かし、人と同じような操りをすることができることを目指しています。

インタラクショングループ

・自身の研究について

僕はこの研究室で「人間の動作と環境構造を用いた3次元セマンティックマップの生成」に関する研究をしています。「人間の動作」と「3次元の環境」の2つの情報を組み合わせ、空間をカテゴライズすることで、そこが人間にとって何を行う場所なのかを認識することを目指しています。こうして得られた認識結果をロボットに与えてあげることで、将来はオフィスなどの人間が共存する環境における自律移動ロボットサービスへの応用が考えられます。

・ロボティクス研究室について

「気が利く人」は、相手が何をして欲しいのかを相手の振る舞いや置かれている状況から察して行動してくれます。ロボットもこんな風に気配りができるようになればおもしろい、それを自分で実現したいという思いがありました。「インタラクショングループ」では、センサーで計測したデータから意味のある情報を取り出し、人とロボットのインタラクションに役立てようという目的で研究しています。計測システムは研究の目的によって様々なものがあり、面白い例としては自動車に3次元の距離センサーを載せてNAIST構内を定期的に巡回して計測している学生もいます。

・研究以外で学べること

ロボティクス研究室の学生はそれぞれに割り当てられた係の仕事があります。僕は研究室内での飲み会やスポーツイベントの企画・運営をするイベント係をしていました。時には先生や学生からダメ出しを受け、気配りのできるロボットを作ろうと勇んで来たのに、本人が気配りできていないと痛感することもありました笑。もちろん大学院生なので研究第一ですが、今後社会で活躍していく上で周囲と協調しながら物事を企画・運営していく能力は必要なことなので、研究以外にも学ぶことがたくさんある環境だと実感しています。

m1welcome

M1歓迎会の様子