電力変換回路の高効率開発に向けた電熱連成解析

ディペンダブルシステム学研究室助教の新谷です。今日は、我々の研究テーマの1つであるパワーMOSFETのモデル化に関する研究を紹介いたします。

パワーMOSFETと発熱
現在、世界各国で電気自動車の開発が盛んに進められています。電気自動車のモーター出力は120kW以上が要求され、そのためには、電源電圧600Vであれば電流200A以上となります。このような、大電流、大電圧の環境下で使用されるパワーMOSFETの性能は、耐圧1200V以上、100A以上を扱えることが最低条件になります。

このような大電力を扱う回路において、最も重要な設計制約は「熱」です。パワーMOSFETはスイッチング時にスイッチング損失を生じます。ドレイン端子からソース端子に流れる電流に生じる導通損失、ゲート端子に寄生する容量成分で生じるゲート電荷損失などがあり、PCやスマートフォンなどに搭載されるマイクロデバイスとは比べ物にならないほど高い値になります。これらの電力損失は熱として現れ、回路特性およびパワーMOSFET周辺に設置された素子に大きな影響を与えます。したがって、高い信頼性が要求される電力変換回路の設計では、設計早期段階でホットスポット(発熱が大きい箇所)を知り、これを考慮した熱設計が必須といえます。従来は、電気特性は回路シミュレーションを行い、熱特性については電磁界解析シミュレータにより行う、というように電気特性と熱特性を分けて解析する手法が主流であり、同時に解析することは困難とされてきました。

そこで、熱特性と電気特性に類似性があり熱特性においても電気特性の基礎法則であるオームの法則が成り立つことに着目しました。表1のように、熱流量、温度はそれぞれ電流、電圧、電位差に置き換えられることができます。抵抗などはそのまま、熱の伝わりにくさを示す熱抵抗となります。我々の研究グループでは、熱特性を電気回路で模した熱回路を用いることで、回路シミュレーション上で電気特性と熱特性を同時に解析する連成解析手法を可能にしました。

表1: 電気特性と熱特性の類似性

電気特性 温度特性
電圧 (V) 温度 (°C)
抵抗 (Ω) 熱抵抗 (°C/W)
容量 (F) 熱容量 (J/°Cm3)
電流 (A) 熱量 (J)
消費電力 (W) 熱流量 (J/s)

 

電熱回路シミュレーションモデル
電熱連成解析実現のために、図1に示すような回路シミュレーションモデルを構築しました。本モデルでは、電気特性と熱特性が相互に依存し合うようになっています。まず、図1の左部分は、パワーMOSFETの電気特性であり、与えられた温度、電圧条件における電流値を計算します。電圧と計算した電流から、MOSFETで消費される電力が計算可能となります。図2の右側は熱回路になります。MOSFETモデルで計算した消費電力を入力とし、デバイスの発熱温度が計算されます。表1から、電気特性で計算された消費電力は、熱特性モデルにおける熱流量のように扱うことができます。熱回路は、一般的に熱抵抗と熱容量から構成されます。ここでは、フォスター回路型と呼ばれる多段RC回路を採用しました。このRC回路により、MOSFETを包むパッケージ樹脂における熱の通しやすさをモデル化しています。熱回路で計算された温度は、再度MOSFETモデルに戻され、この温度および電圧条件での電流を計算します。これらの計算処理は、全て回路シミュレータで行われます。既存の方法では、2つのシミュレータにまたがって行われていた計算を一度に行うことができます。


図1: 電気特性モデルと熱特性モデル

さて、図1のモデルを用いて、任意のデバイスの特性を表現できるようにするためには、モデルのパラメータをデバイスに合わせる必要があります。具体的には、次の2つの手順が必要です。

  1. 温度を考慮した電気特性モデルパラメータの推定
  2. 熱特性モデルパラメータの推定

 

温度を考慮した電気特性モデルパラメータの推定
まず、電気特性モデルで使用されるパラメータを抽出します。電気特性モデルは、その特性を正確に再現するために、いくつかのパラメータで構成されています。MOSFETモデルの場合、フラットバンド電圧、寄生抵抗成分、移動度があります。電気特性モデルを用いることで、電流の特性を計算することができますが、電流が多く流れるデバイスもあれば、電流量が少ないデバイスもあります。そこで、モデル化対象となるデバイスの実測結果をよく再現するようにパラメータを最適化・抽出する必要があり、この工程をパラメータ抽出と呼びます。

ここでは、図2に示すように、温度毎に電流特性とシミュレーションモデルを一致させました。上述のフラットバンド電圧、移動度などのパラメータは、温度に対して一次の依存性を持つことが知られているため、パラメータを温度の1次関数とみなして抽出を行っています。このように、モデルパラメータに温度依存性を持たせることで、図2のように任意の温度における電流値を計算することができます。


図2: 温度毎の電流特性とそのモデル。点が電流の実測値で、線がシミュレーションによる計算結果を表す。

 

熱特性モデルパラメータの推定
上述のように、熱特性モデルは抵抗と容量から構成される多段RC回路でモデル化されています。これらの抵抗値、容量値はどのように求めれば良いのでしょうか。図1のシミュレーションモデルは、図3に示すようなフィードバック制御回路として表現できます。我々は、この熱特性モデルを熱伝達特性とみなして、熱特性モデルのパラメータ推定手法を開発しました。


図3: フィードバック制御図

具体的には、図4のように、パルス幅変調(PWM)機構を用いてMOSFETに対する電力を一定に保ちながら、チップの熱応答を測定する手法を提案しました。PWM機構を用いて、一定周期で現在の電力を計算し、電力を一定に保つように電流の導通時間を制御することで常に平均消費電力が一定になるよう制御します。これにより、伝達関数のステップ応答を直接測定可能になり、複雑な数値処理を行うことなくパラメータを求めることが可能になります。


図4: パルス幅変調回路による電力保持機構

 

バックコンバータを用いた評価
最後に、代表的な電力変換回路であるバックコンバータを用いた評価結果を示します。バックコンバータの回路図は図5の左図で示され、SiCショットキーバリアダイオード(SBD)とSiCパワーMOSFETを含みます。実際に作成した回路は図5の右図になります。この評価では、実測した電気特性と熱特性の過渡的な変化と回路シミュレーション結果による比較を行いました。回路シミュレーションは、市販のSPICE回路シミュレータに、開発した電気特性モデルおよび熱特性モデルを組み込むことで行っています。


図5: バックコンバータの回路図とプリント基板への実装

図6に電気特性および熱特性の過渡解析結果を示します。まず、電気特性、熱特性ともに実測結果とシミュレーションともに非常によく合っていることがわかります。特に、熱解析においては600秒までの過渡的な変化を正確に模擬しており、その誤差は7.52%以下、と非常に高精度なものとなっております。


図6: 電気特性(左)と熱特性(右)の過渡変化の実測とシミュレーションの比較

 

終わりに
以上が、これまでの研究成果の一部の紹介です。地球資源に依存しないクリーンなエネルギーは全世界が注目する研究分野であり、本研究はその一端を担ったものです。近年のパワーエレクトロニクスの進展はすさまじいものがあり、本研究の成果によりパワーエレクトロニクス企業からお声がけいただくことも多く、科学技術振興機構の産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)に一研究グループとして参加しています。最近では、電力変換回路の最適化に関して機械学習を応用した手法の研究にも取り組んでおり、情報科学と電気電子工学の両方を学びたい学生にはちょうど良い研究テーマです。また、計算機上のプログラムによる確認にとどまらず,自ら考えた回路を試作して動作を確認するため、アイデアを具現化する達成感を味わうことができます。

 

生物に倣うロボットの制御

こんにちは,知能システム制御研究室助教の小林です.

ロボットというのは往々にして生物を手本にその機構や制御を設計します.何故なら,生物というのはその誕生から進化をし続けて現在の環境へと最適化されているからです.そんな生物の機構や制御を紐解けば,ロボットにとっても最適な機構や制御を導くことができます.例えば私の過去の研究では,ヒューマノイドロボットの歩行制御を人の歩行の特徴,モデルを基に設計することで人のような省エネな歩行を実現してきました.最近では,生物の運動制御を司る小脳の神経回路網を模倣したReservoir Computingを利用した継続学習に挑戦しています.
なお,研究室の詳しい情報は研究室HPを,私のその他の研究については個人HPをご覧ください.

これまでの研究

この歩行に関する研究は「マルチロコモーションロボット」というプロジェクトの一環で行ってきました.マルチロコモーションロボットというのは,ロボットが単一の移動形態,例えば2足歩行,だけを利用して環境に適応しようとするのではなく,複数の移動形態から最適なものを直面している状況に応じて適宜選択・切り替えていくことでより複雑な環境に適応する,というコンセプトです.これもやはり生物に倣っていて,人を例に見れば,普段は歩きますが急ぐ時は走りますし,梯子を登ったり,山道では両手にトレッキングポールという杖を持って脚への負担の分散,つまり4足歩行をするはずです.この複数の移動形態というのは,それぞれが得意な環境・苦手な環境がありますので,互いの短所を補い合い長所だけを上手く利用すれば,単一の移動形態だけを駆使するよりも遥かに優れた環境適応能力を得られます.

では,そんな複数の移動形態を扱うにはどうすれば良いのでしょうか?単純に考えれば,各移動形態を実現する制御器を別々に用意すれば良いと思うでしょう.しかしこの移動形態というのは細かく分ければ無数に存在しますので,全てを別の制御器で扱うというのは現実的ではありません.そのため,複数の移動形態を可能な限り統一的に扱うような制御器を設計することが求められます.そんな制御器として,環境との受動的な点接触と全身関節角が接触角に連動して動く仮想拘束の2つの原理を組み込んだPassive Dynamic Autonomous Control (PDAC)という手法を提案してきました.この2つはロボットの全身ダイナミクスを非常に簡単なものにしてくれ,さらには,環境と何処で接触しているのか,どのように連動させるか,の2点だけを考えれば全ての移動形態を制御できるようにしてくれます.

特に連動のルール,すなわち仮想拘束を上手に与えると,似た移動形態をさらに統一的に扱うことができます.2足歩行と走行を例に見れば,両脚が地面から離れる跳躍期の有無という違いはあるものの,その本質は左右の脚を交互に振り出していくという共通点があります.人の歩行と走行の解析をして得られたモデルも倒立振子を基にしており,振子の剛性(歩行では硬く,走行では柔らかい)という差異はあるものの,十分に共通化できるものとなっています.この共通化されたモデルに従って仮想拘束を与えると,ただ歩行と走行を扱えるだけでなく,両者間を共通化されたモデルのパラメータ1つを変えるだけで容易に切り替えることが可能になります.ちなみに,この切り替えタイミングについても生物の特徴を取り入れることができます.生物が歩行と走行を切り替えるのは,移動距離当たりのエネルギー消費を最小化するためということが解明されています.つまり,ロボットでも歩行と走行のエネルギー消費を比較して関係が逆転するタイミングで切り替えれば良いのです.
このように生物の特徴をふんだんに取り入れて設計された制御器は,生物のように低速時には歩行を,高速時には走行を自然と実行することができます.

最近の研究

生物の何処が身体を上手に制御しているかと言えば,それは間違いなく脳だと言えるでしょう.つまり,生物の脳構造を紐解いて模倣することができれば,生物のように巧みな動きが実現できるはずです.脳構造を模倣したもの全般はニューラルネットワークと呼ばれ,最近ではこのネットワークの層構造を何十,何百層とした,いわゆる深層学習が認識技術として大きな成功を収めています.この深層学習は人の視覚野と似た情報処理構造をしているとされていますが,では運動制御を司っている小脳を模倣した情報処理構造はどうなっているのでしょうか?その答えがLiquid State Machine (LSM)やEcho State Network (ESN)に代表されるReservoir Computingになります.

Reservoir Computingは入力層・リザーバ層・出力層の3層で構成され,このリザーバ層が自身の信号を再び取り入れるという,再帰的な結合を持つリカレントニューラルネットワークの一種となります.Reservoir Computingの最たる特徴は,学習するノード間の結合がリザーバ層と出力層を接続しているリードアウトのみ,という点にあります.つまり,一般的なニューラルネットワークと異なり,出力層における誤差を逆伝播させることなく,リザーバ層は初期のランダムな結合のままで固有のダイナミクスを有したままとなります.このリザーバ層の構造が小脳における顆粒層に相当するといわれています.また,リザーバ層を学習しないで良いため,そのノード数は通常のニューラルネットワークより非常に大きくしやすくなっており(1千〜1万個など),顆粒層(1000億個ほど)と比べればまだまだ少ないですが,それでも類似した特徴といえます.

最近は,このReservoir Computingを用いた継続学習について研究しています.一般的なニューラルネットワークというのは,誤差逆伝播によってネットワーク全体の結合荷重を更新して学習したいタスクを獲得するため,タスクAについて学習済みのネットワークでタスクBを学習すると,タスクAを扱えなくなる「破滅的忘却」という問題を抱えています.Reservoir Computingであれば,リードアウトをスパースに学習するだけでタスク間の競合を最小限に抑えられます.また,リザーバ層にあるタスク入力を加えれば,固有のダイナミクスに基づいた入力依存の活性化パターンが期待されますので,タスクごとに異なるノードが活性化しやすいようになります.こういった工夫を取り入れることで従来のように全てのタスクについて同時に学習するのではなく,生物のようにタスクを1つずつ継続的に学習することができます.この継続学習は,生物のように生涯を通じて学習し続けて次々に新しいことができるようになる自律ロボットを開発するにあたって非常に重要な能力になります.

現実感を操作して新しい能力を創る

2017年4月に情報科学研究科に誕生した新しい研究室、サイバネティクス・リアリティ工学研究室(Cybernetics & Reality Engineering Laboratory, CAREラボ)を紹介します。

「サイバネティクス」は人とシステムを統一的に扱う学問のことです。「リアリティ工学」は現実感を操作するあらゆる技術を総称する造語です。サイバネティクス・リアリティ工学研究室では、身につけることで現実感を自由自在に操作し、新たな能力を獲得する、人間に対するプラグインあるいはエクステンションモジュールとしての情報システムについて研究しています。ひとことで言えば、未来の道具や超能力をマジメに創ろうとしています。

私たち人間はコンピュータが登場する遥か以前から、様々な道具を発明し、体の一部になったかのように使いこなすことで新しい能力を獲得してきました。私たちは日差しが眩しければサングラスをかけ、音が聞こえにくければ補聴器をつけます。ローテク/ハイテク、アナログ/デジタルを問わず、私たちは現実世界の見え方、聞こえ方、感じ方を操作・調整する様々な道具を使っているのです。バーチャルリアリティ(VR)、拡張現実感(AR)、複合現実感(MR)、コンピュータビジョン、ウェアラブルコンピュータ、コンテキストアウェアネス、機械学習、生体情報処理などといった様々な先端技術を駆使することで、より自由自在に現実感を操作する、未来の道具を創ることができます。

例えば、幾つかのビデオカメラを取り付けたヘッドマウントディスプレイを用いると、遠くの文字が見づらいなあと眼を凝らしたことに反応して、注目した箇所が自動的にズームするゴーグルを構成できます。同様に、捜し物をしているなど首を大きく振ることで視野が180度よりも拡がり横や後ろまで見えるようになるゴーグルも構成できます。

また、距離センサを取り付けたヘッドマウントディスプレイを用いると、実際には動くことなく滑らかに視点を動かして、今いる部屋を上から眺めるといったことが可能になります。周囲の情景の三次元モデルをリアルタイムに獲得して位置をずらしながら目の前に実物大で表示することで、自分の立ち位置が変化したかのような視覚効果を作るわけです。

また、視界全体ではなく特定の物の見え方を操作することも考えられます。例えば、顔表情の変化を捉えて大げさに誇張すれば、表情表出の苦手な人や表情を読み取るのが苦手な人でも、お互いの気持が伝わりやすくなるかも知れません。

視覚に関わる研究ばかりではありません。例えば、自由に向きを変えられる強力なファンを用いれば、目を閉じていても目的地まで引っ張って連れて行ってくれるナビゲーションシステムを実現できます。

過去には、働く人の疲労度や集中度を推定して、照明色やBGMを自動で切り替えたり、居眠りしている人をモーションチェアで揺り起こすようなスマートオフィスを開発したこともあります。

このようなシステムを実現するには、人や環境の状態を知るセンシング技術、感覚を操るディスプレイ技術、道具と人の関わり方を考えるインタラクション技術の3つの柱が重要になります。次の図は、私たちの研究室で主に取り組んでいる研究分野の関係を示したものです。

生まれながらに備わった私たちの様々な能力や自然界の物理法則などは簡単には変えることができません。しかし、こうした未来の道具を用いることで、障害を補ったり、新たな能力を獲得したり、人間の可能性を無限に拡げることができるのです。瞳の色が違えば世界の見え方が違うように、私たちの感じる現実感はそもそもひとりひとり異なります。情報技術を用いて、より積極的に現実感を操作することで、ひとりひとりに寄り添った「パーソナライズドリアリティ」を提供し、より便利に、より快適に、あるいはより安心して生活できることを目指しています。こうした情報システムを通じて、すべての人々がそれぞれの能力を最大限に発揮して助け合う、インクルーシブな社会の実現に寄与したいと考えています。研究室の略称であるCAREには、人をケアして寄り添うという意味も込められています。

私たちの研究室では、本記事で紹介した以外の様々な研究を実施しています。ご興味のある方はぜひサイバネティクス・リアリティ工学研究室のホームページをご覧ください。
http://carelab.info/

 

スマホ時代の情報セキュリティ –電磁波による情報漏えいと対策—

情報セキュリティ工学研究室の林と藤本です。今回は2017年4月からスタートした本研究室で行っている研究の一部を紹介したいと思います。

情報化社会の深化により、スマートフォンやタブレットに代表される個人利用による情報端末が爆発的に普及しています。こうした社会システムが十分機能するための重要な要件の一つが、個人のプライバシーの保護や安全安心な電子商取引といった情報セキュリティの確保です。情報セキュリティは大きく分けて機密性・完全性・可用性の3つの要素からなり、これらの要素をアプリケーション層から物理層に至るまで、個々のレイヤにおいて縦断的に実施する必要があります。今回は、こうしたレイヤの中でも、物理層の情報セキュリティ、特に電磁波を通じた情報漏えいに関する情報セキュリティ(電磁情報セキュリティ)に着目します。

電磁放射により情報漏えいが引き起こされる問題は、コードネームTEMPESTとして1950年代後半から主に米国を中心に軍事・外交分野において検討されてきました。そうした経緯から、電磁放射を用いた情報のモニタリングは高価かつ入手困難な機器を用いた政府レベルでのみ実現可能な攻撃であると広く信じられ、一般的な製品への脅威としてはみなされてきませんでした。

これに対し、近年、計測器の高精度化・低価格化、計算機の高速化と記憶装置の大容量化に伴って、電磁波を安価に長期間計測し、その計測データに統計処理等の加工を施すことが容易になったことから、こうした脅威は軍事分野から一般的な製品へと拡大しています。具体的には、デスクトップ及びノートブックパーソナルコンピュータ (PC : Personal Computer) 等のモニタ画面情報、タブレットやスマートフォンの画面情報及び打鍵情報、PC内部における商用Central Processing Unit (CPU)の演算情報、プリンタの印字情報、キーボードの入力キー情報、暗号処理を行うデバイス内の秘密鍵情報の電磁波を通じた漏えいなどに関する脅威が報告されています。

本記事では、商用機器にも拡大している電磁波を通じた情報漏えいのメカニズムとその脅威を抑止するための対策手法について紹介します。

電磁波を通じた情報漏えいのメカニズム

電磁波を通じた情報漏えいは、主として電子機器が処理するデータに応じて、機器内部で生成・伝送される電気的な信号の時間変化に起因して発生する電磁放射によって引き起こされます。一般的に、情報通信機器から生じる電磁放射は、電磁両立性 (EMC :Electromagnetic Compatibility) の観点から、そのレベルが規制されています。しかし、電磁波を通じた情報漏えいは、データに応じて時間的に変化する放射電磁波に起因することから、電磁波の強度が規格規制値以下の微弱な信号であっても引き起こされる可能性があります。

図1は電磁波を通じて情報が漏えいする様子を模式的に示しています。漏えい源となる集積回路 (IC: Integrated Circuit) がデータに応じて処理を行う際、情報を含む信号はその時間変化速度に対応した周波数成分を持ちます。そして、そのうちの高周波数成分が機器内部でアンテナとして振る舞う部位まで電磁結合を通じて伝搬し、アンテナの周波数特性に応じて空間へ放出されます。

上述したアンテナとして振る舞う部位としては、プリント基板上の配線パターンや、機器筐体を構成する導体、機器に接続された線路などが挙げられます。これらが非意図的なアンテナとして振る舞うことで、放射及び伝導といった電磁放射が発生します。

図1 電磁波を通じて情報が機器外部へ漏えいするメカニズム

図2にタブレットPCから放射されたディスプレイ描画信号の電磁波の時間変化から画面情報を再現した例を示します。これは一画面分の情報から再現した結果ですが、画面情報を一定時間取得して平均化を行うことで、より鮮明な画面を再現することも可能になります。タブレットやスマートフォンの様なタッチスクリーン型端末においては、画面に表示されたソフトウェアキーボード画像の時間変化を取得することにより、情報の入力先と入力内容の双方の情報が漏えいする可能性もあります。

また、ネットショッピングなどで決済時などに利用される暗号モジュールからの秘密鍵情報の漏えいも、上述と同様に、データに依存して変化する放射電磁波を通じて引き起こされる可能性があります。図3は、公開鍵暗号で最もよく利用されているRSA暗号が動作中の機器から放射される電磁波の計測例です。機器内部で行われる演算の違いによって異なる振幅が観測され、この計測情報とRSA暗号回路の実装法に関する事前知識を用いることで秘密鍵の取得が可能となります。こうした攻撃は、機器動作時に副次的に放出される物理量(ここでは放射電磁波)を利用することから、サイドチャネル攻撃と呼ばれています。

図2 漏えい電磁波を用いて再現されたディスプレイ情報

図3 電磁波を通じて漏えいする秘密鍵情報

電磁波を通じた情報漏えい対策手法

情報を漏えいさせる電磁波の抑制には、漏えい源に対する対策や、漏えい源から受信アンテナまでの伝搬経路への対策、電磁放射を引き起こすアンテナへの対策が考えられます。ここでは、そうした対策について紹介します。

漏えい源への対策

電磁波を通じた情報漏えい源とは、情報処理を実行する電子回路を指します。情報漏えいは、その内部の電流・電圧変化のデータ(情報)依存性が放射電磁波に含まれることに起因します。そのため、漏えいする電磁波強度を一定の強度に保つ、放射される電磁界強度を内部の処理と無相関にするといった工夫を施し、内部信号の時間的変動を外部から観測困難にすることで情報漏えいを抑止することが可能となります。

例えば、ディスプレイに対する文字画像の再現手法への対策の一つとしては、ディスプレイに表示される画像の背景色と文字色の電気的なON/OFF信号の電位差を制御し、文字表示に起因する電磁放射を一定にする手法が挙げられます。また、乱数を用いてディスプレイに表示する文字画像を雑音のある複数の画像に加工し、それを高速に表示することにより、電磁放射からディスプレイの再現した画像を攪乱する方法も提案されています。上記ではディスプレイに関する具体例を取り上げましたが、暗号モジュールなどの他のデバイスにおいても、同様の概念で対策がとられています。

伝搬経路への対策

漏えい源から攻撃者が所有する受信アンテナまでの伝搬経路の漏えい電磁波レベルを低減することで、漏えい電磁波を通じた情報取得の脅威に対抗する手法も考えられます。従来のEMC対策は主にこうした手法を採用しています。

伝搬経路には、漏えい源からアンテナまで電磁信号を誘導するカップリングパス、機器を構成するプリント基板上の配線パターンや接続線路など機器の幾何的構造により構成されるアンテナ、さらに電磁波が放射されてから受信されるまでの空間が含まれます。それぞれに対し、適切な対策を施すことで、電磁波の減衰が見込まれます。

カップリングパスやアンテナへの対策としては、(1)漏えい源から発生する電磁信号に対し、発生源近傍に電源デカップリング回路を形成する手法、(2)プリント基板からの漏えい、放射を低減する基板構造に関する手法、(3)機器の筐体やケーブルから漏えいを抑制する電磁シールド手法などの組み合わせが有効であることが知られています。

図4および図5に具体的な対策事例を示します。図4(a)は、暗号モジュールから基板の配線パターンを通じて機器に接続された電源線に漏えい電磁波が伝搬している様子を示しています。これに対し、図4(b)は、伝搬を抑止するためにデカップリングキャパシタを実装することで漏えい電磁波の伝搬を抑止できることを示しています。また、ディスプレイの縁がアンテナとして放射を引き起こしている場合、情報漏えいを引き起こしている周波数を効果的に遮断するシールド構造を、図5の様にアンテナ近傍に貼付することにより、機器外部でのディスプレイ画面の再構築を防ぐことができます。

一方、オフィスなどで利用する情報機器は、リース品などでまかなわれることも多く、上記の対策法を適用できるとは限りません。そのような場合、建物敷地レベル、建物レベル、居室レベルで電磁波を減衰させることで、すべての機器に十分な対策を施さなくとも、電磁波による外部への情報漏えいを軽減できる可能性があります。こうした空間における電磁波減衰の手法としては電磁波シールドが一般的です。こうしたシールドの要件はMIL (Military Standard) 規格で定義されており、規格を満たした電磁シールドを採用することで、情報を含む電磁波が攻撃者に到達する前に背景雑音レベルにまで減衰させることが可能となります。

図4 電気的な対策による情報漏えいの抑制

図5 放射を引き起こしているアンテナ部への電気的な対策の適用

まとめ

電磁波を通じた情報漏えいの脅威は、計測器や計算機の低価格化・高性能化および解析技術の発展とともに多様化していくことが予想されます。漏えい電磁波を介する情報漏えいを効果的かつ汎用的に抑制するためには、これまでのハードウェア及びソフトウェアによる対策手法に加え、EMC分野で用いられる電磁放射抑制技術を適宜利用することも有効と考えられます。

情報通信機器の設計者は、システム全体および利用形態を俯瞰し、電磁波を通じた情報漏えいの危険性がどの程度あるのかを検討し、必要に応じて適切な対策を施すことが重要になると考えられます。理論的には情報が漏えいし得る対策であっても、現実的には十分な場合もあり得ます。また、利用者側でも、そうした対策がきちんと取られている製品であるかどうかを意識していくことが今後大切となると考えられます。

 

Towards the personal healthcare

My name is Ming Huang, an assistant professor in Computational Systems Biology Laboratory. After I graduated from the University of Aizu in 2012, I was a postdoc fellow of NAIST for three and a half years. In this essay, I would like to share some of my thinking related to my study filed with you all.

The technologies featured with ‘wearable’, ‘nonconscious’ characteristics have been being popular in the past few years. It is one of the major domains that will output tremendous amount of data about personal health, and it is a major part of health informatics. Health informatics also involves the information of personal medical data in the form of electronic medical records (EMRs). On the other side, the blueprint of life−the genomic information, is the fundamental factor that bears great amount of information about the origin of life. These two domains together, with the personal health being its focus, are supposed to be able to describe how people adjust themselves to adapt to the external environment and stimulation. I had a great opportunity to engage in studies of the health informatics and now extend into bioinformatics in Computational Systems Biology Lab. Therefore, I would like to introduce parts of ours studies on health informatics and then my opinions about integrating the health informatics with bioinformatics for a novel understanding about human health.

Health informatics involves the aspects of acquiring, storing, retrieving and using of the healthcare information and I would only talk about the acquiring and using aspects here.

Acquiring healthcare information

There are two major sources of the healthcare information, one is generated in hospital describing personal medical, treatment histories and biopsy results. This information will become more useful and versatile when it is organized in the form of EMR. The other major source is the daily healthcare devices, which present in various forms such as wrist band, finger rings or even chair and bed. These real-time biomedical or health monitors allow for the characterization of intra-individual physiological variation and the inter-individual impact of circadian fluctuations on physiological measures. Further, they provide the clinicians and scientists with temporal resolutions to examine physiology and therefore a new way to study human diseases. Two studies about how to acquire vital signs (heart rate, respiration rate, blood pressure and temperature) by noninvasive/wearable modalities will be shown below.

Wearable deep body thermometer

Deep body temperature (DBT) is the temperature of the natural cavities, such as abdomen and thorax. It is conventionally measured by the invasive methods using catheter inserted into rectum or esophagus. Alternative measurements inside the mouth or ear canal are also adopted for intermittent measurement. However, the fluctuation of DBT bears more information in its temporal variation, e.g., the circadian rhythm, therefore a wearable DBT thermometer being able to keep track of the DBT will provide more information about the fluctuation of physiology.

To develop a wearable Deep Body thermometer, the dual heat-flux method (DHFM) has been used. It calculates the DBT based on the heat flux inside a probe as shown in Fig. 1 (a).  The double heat paths inside the probe shown by red arrows enable calculation of the DBT by the embedded temperature sensors. A substrate material with four embedded temperature sensors form the core of the probe. The substrate material has physical properties similar to those of skin and, when attached to the skin, most of the heat flow from the core body due to the difference between the DBT and the skin temperature will flow into the substrate material. After the initial period for heat equilibrium establishment, the DBT can be calculated with the four embedded temperature sensors. With this wearable modality, this DBT thermometer should be able to answer to the needs of realistic applications such as the prevention of heat stroke and the estimation/adjustment of disorder of circadian rhythm.

Fig1
Fig. 1. Illustration (a) and the prototypes (b) of the wearable DBT thermometer.

Validations of device performance is on-going, what we can show is the studies about its accuracy and use in circadian rhythm estimation. We carried out a fast-changing CBT measurement (55 min, 12 subjects) inside a thermostatic chamber. When compared with a reference, the CoreTemp CM-210 by Terumo, the experiment shows 0.07 °C average difference of the prototype.

As for the circadian rhythm estimation, we performed long-term monitoring of CBT (24 h, 6 subjects), whose result shows no significant difference in parameters for the inference of circadian rhythm. A whole-length record of a subject is shown in Fig.2. It shows a very standard fluctuation of core body temperature that subjects to circadian rhythm. Red line denotes the measurement by the reference and blue line denotes the measurement by the DBT thermometer prototype. The cosine fitting curve was generated with the measurement by DHFM-based probe and shown in the broken black line.

Fig2
Fig. 2. Instance of measurements of long-term monitoring of CBT and their fitting results by cosinor.

[1] M. Huang et al, “A Wearable thermometry for core body temperature measurement and Its Experimental Verification,” IEEE J. Biomed. Health Inform., 2016, Feb. for Epub 


Non-occlusive blood pressure measurement

Blood pressure (BP) is another important physiological parameter that can’t be measured in an easy way. The standard occlusive method is for intermittent measurement and needs an inflatable cuff to occlude the arterial supply to the distal limb, so as to estimate the systolic and diastolic BP. But actually, the temporal variation of the BP provides important information about the cardiovascular physiology. A non-occlusive way, the so-called cuffless method, that can measure BP continuously can fully retain the temporal information.

we therefore tried to develop an unobtrusive cuffless BP monitoring system. This system is based on pulse transit time (PTT), which is defined as the time taken for an artery pulse to travel between two arterial sites, to facilitate long-term home BP monitoring.

PTT can be simplified as the time delay between the peak of the R wave in the electrocardiogram (ECG) and the corresponding point in photoplethysmogram (PPG) signals as shown in Fig. 3.

Fig3
Fig. 3. Definition of PTT. PTT is the time between the R-wave of ECG signal and the point in the ascending phase of PPG with maximum first derivative.

Theoretically, we can consider that the pulse wave velocity (PWV), the velocity at which the blood travels along the vessel, is proportional to the square root of elastic module (EM) of the vessel. Further, the EM of the vessel increases exponentially with BP. Therefore, we may be able to estimate the BP based on the PWV.

The proposed system mainly includes an ECG module, a PPG module and the control unit and was implemented into a chair as shown in Fig. 4.

Fig4
Fig. 4. proposed chair-based cuffless blood pressure monitoring system for home healthcare. ECG electrodes and PPG sensor are mounted on the two armrests of the chair, respectively. The estimated BP results can be displayed on a tablet PC or a smartphone via Bluetooth communication.

This method can estimate the BP fluctuation around the basic point, and therefore, needs calibration periodically. The duration, the longer the better, is closely related to the way of the calibration, such as the user should calibrate under peaceful condition, the gesture should be consistent in both calibration and measurement. Our system takes advantage from the setup in the form of the chair and we carried out the experiment to monitor the BP for 60 days with only one calibration at the very first day. Fig. 5 shows the result in whole length, where most differences are within the range of ± 10 mmHg for the former 42 days. Data from more subjects should be collected, but it shows the possibility that this system is capable to provide a stable BP measurement within one month.

Fig5
Fig. 5. Comparison of the reference BP and estimated BP for 60 days with only one calibration.

[2] Z. Tang et al, “A Chair-based Unobtrusive Cuffless Blood Pressure Monitoring System Based on Pulse Transit Time.,” IEEE J. Biomed. Health Inform., Accepted for publication Oct. 2016.

Using the healthcare information

With the great amount of data, we could do more than just plotting the raw data, in other words, using this data for modeling and prediction for the personal physiology will make full use of the data.  We should also bear in mind that the wearable and nonconscious devices are vulnerable to external influences, an appropriate way to remove the noisy signal so as to fully reveal its physiological significance initially, the so-called pre-processing, would be indispensable for the successive analyses.

As an example, a widely-acknowledged procedure for the pre-processing of electrocardiograph is the removal of high frequency noise and baseline wandering by corresponding filters. A low-pass finite impulse response (FIR) filter with its cut-off frequency around 40 Hz is suitable to remove high frequency noise, while a high-pass FIR filter with its cut-off frequency around 0.8 Hz is appropriate to remove the baseline wandering. For the signal acquired by wearable modality of relatively low quality, techniques such as biorthogonal wavelets would have a better performance.

With carefully processed healthcare information, we will be able to develop more sophisticated and elegant models for individual normal physiology, and enable identification of subtle or event-induced changes toward pathophysiology early in the course of disease progression.

Integration of health informatics with bioinformatics

Translating the finding from data-intensive biological studies to effective therapies, diagnostic acids and clinical interventions is common nowadays. Temporal profiling of a subject over 14 days using biological (genomics, proteomics, metabolomics and transcriptomics) and clinical phenotypes have revealed how longitudinal measurements of multiscale biological data showed the dynamics of biological pathway during illness and wellness [3].

This kind of works can be attributed to the relatively new domain of translational bioinformatics. Translational Bioinformatics is the development of storage, analytic, and interpretive methods to optimize the transformation of increasingly voluminous biomedical data, and genomic data, into proactive, predictive, preventive, and participatory health.

In the context of translational bioinformatics, individualized risk model being able to discern innocuous deviation from the average population from pathologic changes is of paramount importance.

It certainly is a fast-evolving and exciting domain, for there are a broad space to be explored. For example, how to choose the data streams and determine their clinical significances; how to embed these streams into EHR so as to integrate with biomedical data should be addressed before it can exert great impact on human health.

This domain will finally compose the intact image about personal health. And I do believe it will change the conventional clinical thinking about health in a way.

[3] R. Chen, et al. “Personal omics profiling reveals dynamic molecular and medical phenotypes.” Cell 148.6 (2012): 1293-1307.